健ちゃん日誌(13)

日記
05 /17 2021
×月×日曇後晴れ
 今季一番の寒さ。西の山々の頂が白く染まる。健ちゃんに午後から晴れると思うからと買い物に誘う。車に乗る際に、手で前部座席の背もたれを押さえて体を先に座席に倒れ入れて、その後に各足を手で持ち上げるように支えている。どうしたのと聞けば、「変だ。足がどちらも上がらない気がする。う~ん。寒さのせいかな。」などとのんきなことを言っている。でも、店内ではカートを押していつも通りに買い物を済ましたので、あまり気にせずに別れて帰る。

×月×日晴
 健ちゃんに買い物を誘うが、乗り気でなくて翌日にする。

×月×日雨
 夜中に健ちゃんの夢を見て目が覚める。外から激しい雨音がする。何か不吉な思いが渦巻いて眠れなくなり、朝方までうつらうつらしている。明るくなってから寝入ってしまう。目が覚めたら11時過ぎ。健ちゃんに電話すると、右足を痛めて動けないのだと言う。食料品や湿布薬を買いそろえて行く。
 健ちゃんはベットの部屋から這うように出てきた。座椅子にも一人で座れず、僕が腰を持ち支えてやっと落ち着いた。昨夜、灯油が切れたので、屋外タンクから屋内に引いてある給油官の蛇口の所まで行こうとして、段差の場所で右足をひねってころんでしまった。やっとの思いで這い戻ったと言う。とりあえず室内のごみや生ごみを始末し、食べ散らした食器や台所を片付ける。ヒーターに灯油を補給し、便器と尿の入ったたくさんのペットボトルを処理する。医者に行こうと何度言っても、湿布薬を貼って寝ていれば治るからと聞かない。

×月×日小雨
 妻が作ったシチュー,ブロッコリー等のサラダ、ピクルス、リンゴなどを持っていく。具合悪そうにしているので医者に行こうと進めるが応じない。食事を整え、灯油を補給、大小便の始末、ごみ等の始末を行う。健ちゃんの方から排便等の処理について、介護応援をする人がいるのか話してきたので、田口民生委員宅に行って相談する。介護支援センターで介護認定に準じた認証をしてもらえれば低料金でシルバーの派遣をしてもらえると聞いた。相談に行きましょうと、翌日の午後に予約を取ってくれる。

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健ちゃん日誌(12)

日記
05 /12 2021

×月×日晴れ
 田口民生委員から電話。健ちゃん訪問は、介護支援センターの担当指導員の対応が優しくスムースに行われたと教えられ、安心する。健ちゃんと買い物に行く。面談は、いろいろ(雑談が主)話したが、なごやかに終えたと言う。そこで、医者に行って介護申請の診断書を書いてもらおうと勧めるが、用件はもう済んだと言わんばかりで、聞く耳を持たない。
 一方、山田担当官からの連絡は何もなかった。市役所の福祉課職員の対応と全く同じなのだった。1回の訪問面談が福祉業務を果たしたと言う免罪符なのだろうか。お役所業務のサービスは1回限りで、後は相談者が足繁く通わなければ何の手立ても教えてくれないのかも知れなかった。でも、自分からもう一度足を運ぶのも億劫で、ずるずると日を伸ばしている内に、何だかもうどうでも良い気分になってしまうのだった。それに健ちゃんは夏を乗り切ると、徐々に下痢の症状は治まってきたようで、便秘を気にするだけになった。
 排便の始末も4日に1回なら、今までどおりだし…買い物もカートを引けば、今まで通り店内を歩けるし…などと僕は自分の都合に合わせて楽観的に考えるようになった。

×月×日晴れ
 健ちゃんと買い物。普通の便通があったと元気。酒類は地元の店から届けてもらったから焼酎は買わないと言う。久しぶりラーメンを食べたいと言うのでいつものチェーン店に入る。付け麺と餃子を取るが、健ちゃんは半分も食べきれずに残す。

×月×日晴れ
 実家での農作業の後、健ちゃん宅に妻の作った肉じゃが、サラダをタッパーに入れて持っていく。実家の庭で収穫した食用菊(ふくろ菊)をゆでて、もらった紅玉(リンゴ)を1個すりおろして、酢と塩や砂糖で調味し、一品追加。居間に置き放しの食器類等を洗い、台所の汚物とゴミ処理。明るいうちに帰る予定が、すっかり暗くなる。

×月×日曇
 健ちゃんが座椅子の下敷が尻に当たって痛いので穴あきのクッションが欲しいと言う。それに足指の水虫がひどいので水溶液の薬が要ると言うので、スーパーの買い物の後に各店に寄って調達する。水虫薬って軟膏じゃないのと聞くと、爪の中に入って水溶液でないと効かないと言う。体を不潔にしているからだと言ってやりたいが、黙って聞いている。

×月×日晴れ
 健ちゃんのお金をおろしに郵便局に行き、車の左前部をコンクリートの縁石にこすってしまう。いつもと違う停車なんかさせるから、こんな結果になったと、自分の未熟な運転操作を棚に上げて、ぐずぐずと不機嫌な態度を取ってしまう。健ちゃんは、ホームセンターの缶塗料を買って塗れば十分だなどと言うからよけい腹が立つ。

×月×日曇
 車の修理が終了する。綺麗に仕上がったので文句はないが、わずかな部分の塗装代が3万円…自分の財布から出るのが痛い。妻が家計からやりくりすると言ってくれたが、自分のへそくりで払うと見栄を張る。健ちゃんに咎はないが、ちょっと憎らしい。

健ちゃん日誌(11)

日記
05 /10 2021
×月×日晴れ猛暑
 電話すると、買い物には行かないと具合が悪そうなので、妻にお粥を作ってもらい持っていく。蒸し暑い部屋にパンツ一枚でいる。便秘からようやく便が出たが、下痢で間に合わずベッドのシーツや床を汚してしまったと言う。汚れ物を処分したいのだが、業者に頼めば簡単だ…なんて僕に頼みもせずにぐだぐだと話す。部屋を見ようとすると大丈夫だと止めるので、そのまま帰る。

×月×日(翌日)晴れ暑い
 ビニール手袋に長靴やマスク、消臭剤を持ち、車の後部座席を倒してビニールシートを敷いて健ちゃん宅へ行く。寝室内の不用品や汚れ物をまとめて積んで市のクリーンセンターへ、健ちゃんを乗せて行く。廃棄料金540円。戻ってベッドに新しいシーツを敷き、押し入れから夜具を取り出して換える。ついでに寝室内を掃除する。台所掃除、ゴミ焼き、汚物の処理…健ちゃんも少し元気が出て来たので、2人で買い物へ。

×月×日晴れ
 健ちゃんの地区の民生委員が本年になって交代し、新任者が地元の小間物屋を営んでいる女店主だと分かった。健ちゃんとは幼なじみだし、タバコや雑誌を定期的に購入してもいるので健ちゃんとは、気軽に話できる関係だ。早速、挨拶を兼ねて尋ねる。田口民生委員も健ちゃんの不自由な体や最近の健康状態を気にかけていて、地域支援センターに一緒に相談に行きましょうと応じてくれた。

×月×日曇涼しい
 田口民生委員と一緒に地域支援センターへ相談に行く。応じてくれた山田担当官は元気な小母さんで、すぐに民生委員と一緒に健ちゃん宅を訪問することになる。僕から本人に話して了解を得て置くように言われる。やたらと僕のことをねぎらってくれたけれど、福祉課の若い女性職員と似た対応なので、少し不安を抱いてしまう。終わってから健ちゃん宅に行く。下痢は治ったと元気。地域支援センター員の訪問を話すと、嫌がって拒否する。話を止めて買い物に行く。体調は良いようで、ステッキを使って何とか歩行できる。郵便局で現金を下ろすと、道の駅、作業用品店、食料スーパー、ドラッグストアをはしごする。最後は疲れて動けなくなり、車内で缶コーヒーを飲ませて僕が買い物を済ませる。その後に車内で再度話し合う。健ちゃんが自分一人で食事と排便をこなせるならば、気にしない。僕は今まで通り買い物手伝いを続けるだけで、何も心配しない。でも、今は食事を作れないし片づけもできないじゃないか。トイレだって後始末を僕がやっている。これ以上動けなくなったらどうするのさ。在宅介護制度があるのだから、どんな手助けをしてもらいたいか考えて、その方法を相談して欲しい。くれぐれも自分でやれるなどと言って失礼な態度などとらないように助言する。健ちゃんは黙って聞いている。

健ちゃん日誌(10)

日記
05 /09 2021
 ×月×日曇暑い
 僕と健ちゃんの買い物は、週1回ぐらいだったのが、2回近くになり、いつの間にか僕の訪問は2回を超えるのが常態になった。行けば行くほどに訪問が必要だし、不安が増すばかりだった。独り住まいで買い物に難儀しているばかりか、日常生活そのものにも困難が出てきている…在宅介護の支援がないものだろうか。それよりも健康が心配だ。この不安を誰かに共有して欲しい、一緒に見守りをして欲しい。
よく考えもせずに不安に駆られて、市役所の福祉課へ相談に行く。窓口近くに席を置いた若い女性職員が、僕の要件を聞いて、そのままカウンター越しに立ったまま対応する。事前電話もせずに行ったし、相談室も座る場所も見当たらないのだから無理もないと思うのだが、がっかりし気力が萎える。「消費者相談室の方が、親身になって聞いてくれたなあ」などと意味もなく思い浮かんで来る。一人住まいの健ちゃんの様子を伝え、何か介護支援の手立てがないかと相談する。職員は、健ちゃんと僕の住所と電話番号を聞き、健ちゃんと僕の関係を細々と聞いて書き留めた後、「分かりました。当方から職員が訪問して見ます。」と返答する。医者に行かない健ちゃんの健康の事、一人では買い物もできない生活の事、歩行困難に加えて物を持てない右手の事、食事や排便にも手助けが必要になって来ている事、何よりも本人が公的な介護知識もないのに拒否的な事等、相談したい事はたくさんあったのだけれど、わずか数分の応答で終わってしまう。僕の不安は何なのか、健ちゃんをどうして欲しいのか、そんな不透明な僕の悩みすらとても分かってもらえないような気がした。若い女性職員のテキパキした口調の前で、「どうかよろしくお願いします」と述べて出てきたけれど、無力感ばかりがつのって苦しかった。
 福祉課の対応は早かった。健ちゃんには、市の福祉課に行って相談したから「職員が訪問するかも知れない」と伝えて、「当方で協力を願ったのだから失礼な事は言わないで、困っていることをよく相談してよ」と言いくるめていたが、若い男子職員が間もなく訪れたと言う。健ちゃんが言うには、「何をしに来たのかな?」と言う感じだったから、失礼な態度など何も取っていない。雑談を交わして帰っただけだ。というものだった。僕だってうまく相談できなかったのに、健ちゃんが悩みを相手に伝えるなんて無理だと、がっかりして考えた。福祉課にお礼と様子を聞こうと電話を入れると、他の人が出て「伝えます」で終わってしまった。その後に連絡一つ来るわけでなく、僕の相談案件は1回の訪問で処理されてしまったのだった。どうしようと考えるのだが、どうしようもないと思う。もう一度足を運ぶ気持ちにはなれなかった。


健ちゃん日誌(9)

日記
05 /08 2021
 健ちゃん日誌(9)
 ×月×日曇時々雨
 健ちゃんと買い物。下痢が止まらないと言うので、またやってしまうかと不安を覚える。でも思ったより身ぎれいにしているし、店内でもカートを押してしっかりと歩けた。車内の会話も元気なので、少し安心する。

 ×月×日
 僕の実家(空き家)から、携帯電話で健ちゃんに「(盆に兄弟が集まるので)今日から家に(プロパン)ガスを入れた。迎えに行くから風呂を使わないか」と誘う。「行かない。電気料金を払いに行きたい。」と言う。自分勝手だなと苛ついて、僕も嫌だと断って切る。実家で作業を終えてから健ちゃん宅に寄る。部屋は一段と汚れ切って、座椅子にもたれた健ちゃんはすっかり浮浪者見たいだ。下痢は治まったが体調が悪いと言う。電気料金の請求書と金を預かってコンビニで支払う。

 ×月×日晴れ炎暑
 体調不良で買い物に行かないと言う。食料と酒類を買いそろえて持っていく。トイレに行くのが難儀だと、ペットボトル(4ℓ)に排尿して廊下に4~5本並べてある。外便所に捨てて、ペットボトルを屋外の水道管で洗う。ポータブル便器も処理しようとすると、「最近は便秘で出てない。大丈夫だから」と強く拒むので放置する。

 ×月×日曇暑い
 帰省した兄弟たちが帰ったので、健ちゃんを連れて僕の実家(空き家)へ行く。クーラーを入れて、仏壇の盆飾りを片づける。その間に、健ちゃんは風呂場でシャワーを使った。帰りに町のスーパーで買い物をして家に送り届ける。下痢が治まったが、今度は便秘が続いていると言う。

 ×月×日曇
 実家へ健ちゃんを連れて行く。健ちゃんにシャワーをして休んでいるように言い、僕は外で野菜を収穫する。終わって戻ると、シャワーもせず座布団を並べた上に横になっている。元気がない。帰りの買い物も焼き鳥2セットを買って済ます。一つを僕にくれて、「もう今日はこれでいい」と言う。何だか心配になる。

読み人知らず

 東北の田舎に暮らす退職者です。こんな年齢で万葉集を読み始め、読むほどに好きになりました。たくさんの人が万葉集について語っています。
 私も、巻13にある「読み人知らずの歌」を語りたくなりました。誰にも読まれずしんしんと埋もれていくとしても…